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神戸地方裁判所 平成6年(ワ)1969号 判決 1995年9月19日

原告

土井淑子

被告

秋定昌憲

主文

一  被告は、原告に対し、金二九二万二九四七円及びうち金二六七万二九四七円に対する平成四年九月一三日から支払済みまで、うち金二五万円に対する平成七年九月二〇日から支払済みまで、各年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金四九六万五一一四円及びうち金四五一万五一一四円に対する平成四年九月一三日から支払済みまで、うち金四五万円に対する平成七年九月二〇日から支払済みまで、各年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故により傷害を負つた原告が、被告に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償を求める事案である。

なお、付帯請求は、弁護士費用を除く損害金に対する後記交通事故発生の日から支払済みまで、及び、弁護士費用に対する本判決言渡しの日の翌日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による各遅延損害金である。

二  争いのない事実

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

(一) 発生日時

平成四年九月一三日午後六時ころ

(二) 発生場所

神戸市西区玉津町小山字走り田二七六―一先 信号機により交通整理の行われていない交差点

(三) 事故態様

本件事故の発生場所は、第二神明道路の出口からの道路が一般国道に合流する交差点である。

原告は、普通乗用自動車(神戸五二め四三二二。以下「原告車両」という。)を運転し、右交差点手前の一時停止の道路標識にしたがつて停車していたところ、被告が運転する普通乗用自動車(神戸五四そ一四八九。以下「被害車両」という。)が後方から追突してきた。

2  責任原因

被告は、前方注視義務を尽くさずに被告車両を原告車両に追突させたもので、民法七〇九条により、原告に生じた損害を賠償する責任がある。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  原告の入通院と本件事故との因果関係の有無

2  原告に生じた損害額

四  争点1(因果関係)に関する当事者の主張

1  原告の主張

(一) 原告は、本件事故によつて生じた傷害について、次のとおりの入通院を余儀なくされた。

(1) 平成四年九月一三日から同年一〇月二〇日まで(三八日間)、佐野伊川谷病院に入院

(2) 平成四年一〇月二一日から平成五年三月二九日まで(実通院日数八九日)、安江整形外科に通院

(3) 平成四年一〇月二一日(実通院日数一日)、吉田病院に通院

(4) 平成四年九月二〇日から平成五年五月九日まで(実通院日数三六日)、石本電療院に通院

(5) 平成五年三月五日から同年五月一四日まで(実通院日数一一日)、竹井治療院に通院

(二) 本件事故により、原告車両は少なくとも一メートルは押し出されており、原告車両のような排気量一五〇〇CCの軽重量の乗用車の場合、軽微な追突でも鞭打ち損傷の受傷の可能性があることはよく知られている。

(三) 原告の入通院が、原告の既往症によるものである旨の被告の主張は否認する。

2  被告の主張

(一) 原告主張の(一)の(1)ないし(3)の入通院は認めるが、次に述べるとおり、本件事故との因果関係は否認する。

(二) 本件事故は単純な追突であるが、原告車両は追突によりわずか三〇センチメートル押し出されたにすぎず、原告車両の損傷も軽微で、その追突の衝撃はきわめて小さかつた。

(三) 原告は入通院は、既往症である変形頸椎症によるものであつて、本件事故とは無関係な退化変化、加齢変化である。

第三争点に対する判断

一  争点1(因果関係)

1  原告の既往症

乙第五、第六号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、原告は以前にも何度か交通事故にあつたことがあり、昭和六二年六月一六日に追突されたのが本件事故の直前の事故であること、原告は、頸椎症性神経根症の診断の下に、安江整形外科に、昭和六二年一〇月八日から昭和六三年五月一八日まで通院していたこと(実通院日数八日)、同外科の医師は、本件事故の診断書の一部に、原告の傷病として「頸椎捻挫(変形性頸椎症)」、原告の既往症として「変形性頸椎症」と記載していることが認められるが、他方、原告本人尋問の結果によると、本件事故の直前には、原告には眩暈、肩凝り、頸の痛みはなかつたことが認められる。

2  本件事故の態様及び本件事故直後の原告の状態

甲第一四号証(乙第一号証と同一のものである。)、乙第二、第三号証、原告本人尋問の結果によると、次の事実を認めることができる。

(一) 本件事故当時、原告は、シートベルトを着用しており、ブレーキペダルを踏んで停止し、右肩越しに右後方の道路の状況を確認していた。

(二) そこに、被告車両が後方から追突してきたが、被告は、本件事故後に行われた実況見分において、原告車両は、本件事故により、約三〇センチメートル前方に押し出された旨指示説明した。なお、原告の記憶によると、原告車両は、本件事故により、約一メートル前方に押し出された。

(三) 本件事故により、原告車両には後部バンパーに損傷が生じ、これを修理するのに要する費用は金五万一七二七円(消費税込み)である。

また、原告の記憶によると、被告車両の前部バンパーは、本件事故により、「ハ」の字の形しに変形し、訴訟前及び訴訟中における原告の要望にもかかわらず、被告は被告車両の損傷写真及び修理見積書を提示・提出しないので、被告車両の損傷の程度は不明である。

(四) 本件事故直後、原告と被告とは近くの交番に行つたが、そこで、原告は急に気分が悪くなり、吐き気をもよおした。

そして、警察官が呼んだ救急車により、原告は佐野伊川谷病院に搬送され、診察の結果、入院を要すると診断された。

3  原告の入通院状況

(一) 甲第二、第三号証の各一、乙第三、第四号証によると、原告は、頸部捻挫、右手・右膝打撲の診断の下に、平成四年九月一三日から同年一〇月二〇日まで(三八日間)、佐野伊川谷病院に入院していたことが認められる(入院期間については当事者間に争いがない。)。

(二) 甲第四号証の一、第六号証の一、乙第六号証によると、原告は、頸椎捻挫の診断の下に、平成四年一〇月二一日から平成五年三月二九日まで(実通院日数八九日)、安江整形外科に通院していたことが認められる(通院期間及び実通院日数については当事者間に争いがない。)。

(三) 甲第五号証の一によると、原告は、平成四年一〇月二一日(実通院日数一日)、医療法人栄昌会吉田病院に通院し、慢性硬膜下血腫の疑いとの診断を受けたことが認められる(通院日については当事者間に争いがない。)。

(四) 甲第七号証の一によると、原告は、平成四年九月二〇日から平成五年五月九日まで(実通院日数三六日)、石本電療院に通院したことが認められる。なお、弁論の全趣旨によると、同院の石本長一は柔道整復師であることが認められる。

(五) 甲第八号証の一によると、原告は、平成四年三月五日から同年五月一四日まで(実通院日数一一日)、竹井治療院に通院したことが認められる。なお、弁論の全趣旨によると、同院の竹井淑子は柔道整復師であることが認められる。

4  割合的因果関係の認定

(一) 1ないし3の認定事実によると、原告には既往症として変形頸椎症が存在しており、これが、本件事故による受傷を契機として再発・増悪し、原告の右治療の一要因となつているというべきである。

そして、このような場合には、いわゆる割合的因果関係があるものとして、民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用するのが相当である。

(二) そこで、これによる減額の割合を検討すると、原告には確かに右既往症が存在しているが、本件事故直前の原告の日常生活には支障がなく、本件事故がなければ、右既往症は顕現したとは考えられず、その寄与の度合いは軽微であると認められるから、原告の損害から二〇パーセントを減額するのが相当である。

(三) なお、被告は、右手・右膝打撲は、本件事故とは因果関係がない旨主張するが、乙第三、第四号証によると、原告は初診時から右手・右膝の痛みを強く訴えていたことが認められ、これによると、右手・右膝打撲と本件事故との因果関係を推認することができる。

また、被告は、柔道整復師による治療と本件事故との因果関係も争うが、原告本人尋問の結果によると、右治療は医師の指示によるものではないものの、原告が右治療により相当程度以上の症状の軽減回復を感じていることが認められ、治療の必要性、相当性を肯定することができるから、本件事故との因果関係があるというべきである。

さらに、原告は、被告の入院期間中の外出外泊を指摘するが、甲第七号証の一、乙第四号証、原告本人尋問の結果によると、右外出外泊は、石本電療院による治療を受けるためのものであつたことが認められるから、原告の右指摘は正当ではない。

二  争点2(損害額)

争点2に関し、原告は、別表1の請求額欄記載のとおり主張する。

これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容額欄記載の金額を、原告の損害として認める。

1  損害額

(一) 治療費

甲第二ないし第六号証の各二、第七、第八号証の各一、第一〇ないし第一二号証によると、治療費として合計金一八〇万七五七四円が認められる。

そして、原告の治療費の主張は金一八〇万七四九七円であるので、治療費としては、原告の右主張金額の限りで認めることとする。

(二) 入院雑費

原告が三八日間入院したことは当事者間に争いがないところ、前記のとおり、右入院は、本件事故によるものというべきである。

そして、入院雑費としては、原告主張の一日あたり金一二〇〇円の割合による金額を認めるのが相当であるから、金四万五六〇〇円が認められる。

(三) 通院交通費

甲第七、第八号証の各二、第九号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、安江整形外科への通院交通費が合計金七万一二〇〇円であること(一回あたり金八〇〇円、八九回分)、石本電療院への通院交通費が合計金七万二二四〇円であること(甲第七号証の二)、竹井治療院への通院交通費が合計金三万〇五八〇円であること(甲第八号証の二)が認められる。

したがつて、通院交通費は合計金一七万四〇二〇円である。

(四) 休業損害

甲第一五号証の一ないし七、第一六号証の一ないし三、原告本人尋問の結果によると、原告は、保険の外務員をしていること、その給与は固定給よりも歩合給の方が多いこと、本件事故前後の原告の給与総支給額は別表2記載のとおりであることが認められる。

そうすると、事故直近の平成四年六月分ないし八月分の給与総支給額の平均月金四九万三六五七円を基準にした場合、同年九月分ないし一一月分の給与はこれを下回つているが、同年一二月分以降はこれを上回つているから、結局、同年六月分から八月分までの三月分の給与総支給額の合計金一四八万〇九七二円から同年九月分から一一月分までの三月分の給与総支給額の合計金一一六万六九〇二円を控除した金三一万四〇七〇円が、原告の休業損害となる。

(五) 入通院慰謝料

前記認定の本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、原告の入通院期間等の一切の事情、及び、後に割合的因果関係により減額されることをも考慮すると、原告の入通院慰謝料を金一〇〇万円とするのが相当である。

(六) 小計

(一)ないし(五)の合計は、金三三四万一一八四円である。

2  割合的因果関係

争点1に対する判断で判示したとおり、割合的因果関係として、原告の損害から二〇パーセントを減額するのが相当である。

そうすると、右減額後の金額は、次の計算式により、金二六七万二九四七円(円未満切捨て)となる。

計算式 3,341,184×(1-0.2)=2,672,947

3  弁護士費用

原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告が負担すべき弁護士費用を金二五万円とするのが相当である。

第四結論

よつて、原告の請求は、主文第一項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し(遅延損害金の始期は原告の主張による。)、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表1

<省略>

別表2(原告の給与総支給額)

<省略>

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